経営者にとって、いかに効率的に利益を増やすかは重要な事項です。
しかし、複雑な状況下で、利益に影響を与える要素をすべて把握し、
最適な経営判断を行うこと簡単ではありません。
そこで今回は、利益感度分析という手法をご紹介します。
利益感度分析は、販売価格、販売数量、原価、販管費の変動が利益にどれだけ影響与えるかを分析することで、
利益を効率的に最大化するための施策を判断するのに役立つツールです。
この記事では、利益感度分析の定義から、具体的な分析方法、分析結果の活用方法まで、基本的な事項を解説していきます。
利益感度分析をマスターすることで、あなたの企業の経営のお役に立てれば幸いです。
利益感度分析とは
利益感度分析とは、販売単価、販売数量、変動費単価、固定費の変動が利益に与える影響を分析する手法です。
この分析結果を踏まえることで、利益を最大化するために何から手を付ければ効率的かを判断することができます。
利益感度分析を用いることで、客観的なデータに基づいた意思決定が可能になります。
特に以下の2つのケースで役に立ちます。
- 利益の変動リスクを把握
利益感度分析により、販売単価、販売数量、変動費単価、固定費の変動が利益に与える影響を定量的に把握することができます。
これにより、利益の変動リスクを事前に予測することが可能になり、リスク対策を講じることができます。
- 利益最大化戦略を策定
利益感度分析により、どの施策が利益に最も効果的なのかを分析することができます。
これにより、限られた経営資源を効率的に活用し、利益最大化を目指すことができます。
利益感度分析の計算式と分析結果の活用方法
利益感度分析は、以下の手順で行います。
- 分析に必要なデータを取得する
- 感度比率を計算する
- 感度比率の解釈
分析に必要なデータを取得する
直近の試算表や損益計算書から以下の数字を取得します。
- 売上高
- 変動費
- 固定費
なお、売上高は数字をそのまま記載されていますが、
変動費と固定費は、試算表や損益計算書には直接記載されていません。
そのため、試算表や損益計算書に記載されている売上原価と販売費及び一般管理費から
変動費と固定費を区分する必要があります。
厳密に区分するには非常に手間がかかるので、
簡便的に売上原価に含まれる原材料費、商品の仕入費用、外注費や
販売量に応じて変動する販売手数料を変動費として扱い、
それ以外は固定費としてもよいでしょう。
上記の数字がわかると会社の利益構造がわかります。
利益構造はイメージにすると以下のようになります。
感度比率を計算する
感度分析では、利益を決定する要素は、以下の4つと考えます。
この4つの要素ごとに利益に対する影響度を表す感度比率を計算します。
- 販売単価
- 販売数量
- 変動費単価
- 固定費
感度比率は、4つの要素ごとに以下の計算式で求められます。
要素 | 計算式 | 意味 |
---|---|---|
価格 | 経常利益÷売上高 | 販売価格をどれだけ下げると、経常利益はゼロになる |
数量 | 経常利益÷限界利益 | 販売数量をどれだけ下げると、経常利益はゼロになる |
変動費単価 | 経常利益÷変動費 | 変動費単価をどれだけ上げると、経常利益はゼロになる |
固定費 | 経常利益÷固定費 | 固定費をどれだけ上げると、経常利益はゼロになる |
感度比率の解釈
感度比率は、各要素についてどれだけ変動したら、利益がゼロになるかを意味します。
これを言い換えると、感度比率が小さい要素ほど、少ない変動で利益に大きな影響を与えるということになります。
感度比率が小さい要素ほど、少ない労力(数字の上で)で利益を改善できるため、
経営上の施策の順序を考える際に、役に立つのです。
例えば,価格の感度比率が10%、販売数量の感度比率が20%の場合には、
販売単価が10%下がると、利益がゼロになります。
一方で販売数量の感度比率が20%下がると、利益がゼロになります。
この場合には、感度比率が小さい価格の方が販売数量よりも利益に対する影響が大きいことを意味します。
そのため、経営上の施策を考える上では、価格を向上させる方法を考えた方が効果的であると言えます。
このように、利益感度分析の結果をみて、感度比率が低い順番の要素から優先的に施策を考えてみることが重要となります。
利益感度分析の具体例
ここでは、利益感度分析を具体例を用いて説明します。
以下の状況の会社があったとします。
【具体例】
サンプル株式会社
- 売上高: 5億円
- 変動費: 2億円
- 限界利益:3億円
- 固定費: 1億円
- 経常利益: 2億円
要素 | 計算式 | 数値 | 解説 | 取り組む順番 |
---|---|---|---|---|
販売価格 | 経常利益 ÷ 売上高 | 2億円 ÷ 5億円 = 0.40 | 販売価格を40%下げると、経常利益はゼロになる | 1 |
販売数量 | 経常利益 ÷ 限界利益 | 2億円 ÷ 3億円 = 0.67 | 販売数量を67%下げると、経常利益はゼロになる | 2 |
変動費単価 | 経常利益 ÷ 変動費 | 2億円 ÷ 2億円 = 1.00 | 変動費単価を100%上げると、経常利益はゼロになる | 3 |
固定費 | 経常利益 ÷ 固定費 | 2億円 ÷ 1億円 = 2.00 | 固定費を200%上げると、経常利益はゼロになる | 4 |
感度比率が低いほど、利益に対する影響度が大きいことになるため、
低い順番に並べると、販売価格、販売数量、変動費単価、固定費となります。
つまり、この順番に経営上の施策を取ることが効果的であると言えます。
したがって、サンプル株式会社では販売価格が利益に対する影響度が大きいため、
まず最初に販売価格に対する施策を考えます。
利益感度分析の注意点
利益感度分析は、経営上の施策についてどれから手を付ければよいのか判断する際に役に立ちますが、
活用に当たっては以下の点に注意が必要となります。
- 数字の上での優先順序である
感度比率は、数字の上で優先順序を判断するのみであり、実際に施策を取り組む際の難易度は考慮していません。
例えば、販売単価の感度比率が一番低い場合には、利益感度分析の上では、販売価格の向上を最優先すべきですが、
そのためには取引先に価格交渉を行う必要があり、一般的には難易度は非常に高いでしょう。
このように、利益感度分析は、数字の上での優先順序だけを示すため、
実行の判断に当たっては 他の要素も考慮する必要があります。
- 実行に当たっては、複数の要素を組み合わせて改善する
実行に当たっては、複数の要素を組み合わせた施策も考えてみましょう。
先の具体例のサンプル株式会社でいえば、感度比率の順序が良い、
販売価格と販売数量を同時に高める施策を考えることになります。
仮に、取引先との価格交渉で販売価格を向上させる施策が不十分であっても、
販売数量の向上でその不足を補うことができます。
まとめ
利益感度分析の基本的な事項について説明しました。
利益感度分析は、販売価格、販売数量、変動費単価、固定費のどれから手を付ければ
利益が効率的に最大化されるか優先順位を定量的に明らかにしてくれます。
分析方法を簡易であるため、とりあえず試しにやってみることも可能です。
実務においては、利益感度分析で経営上の施策の方向性を決定し、
実際にどう取り組むのか具体化して頂ければと思います。
数字を使った経営に興味がある方はぜひ弊所までお問い合わせください。